World Arts&Culture Association
演奏者よりメセージ
Message to you |
|
|
|
過去はひとまず終わった。
これから君が始まるのだ。
|
|
川畠成道
|
|
Photo by Victor
|
私がヴァイオリンを始めたのは、予期せぬ病気の後遺症で視覚障害になった為で
あった。
小学3年の夏休みに祖父母と共に旅行したロサンジェルスで風邪をひき、その時服
用した薬が原因で生存率5パーセントと言う難病にかかり、カリフォルニア大学付属
病院で3ヶ月間の闘病生活を送る事になった。
帰国後も病院通いが続き、家族は皆暗い気持ちで生活していたと思う。祖父はいつ
も「今までの事は仕切りをしなさい。これからが自分だと思いなさい。過去はひとまず
終わった。これから君が始まるのだ、それが君のアイデンティティーだ。」と言ってい
た。
その内、両親が将来の為に目を使わずに出来る職業を考えてくれるようになる。い
ろいろ考えた末、ヴァイオリンにたどり着いた。私が10歳の頃である。視覚に障害の
ある私にヴァイオリンをさせると言う事は、両親にとっては相当な覚悟が必要であった
だろう。
私の場合、譜面を見て弾く事ができないので将来の仕事の範囲も狭まるかも知れ
ない。一方、見る事が出来ないのなら耳を目いっばい使えば不可能な事はない筈だ。
いずれにしても厳しい状況でのスタ一トであった。
そして家族全員がヴァイオリン中心の生活のリズムに乗る事になる。毎日8時間か
ら10時間の練習が始まった。両親には遅い年齢から始めた分を挽回しなければと言
う気持ちも有ったと思う。親戚からも「病後の子供をかわいそうに」と言われたそうだ。
実際、当時はいくら努カしても目的地にすんなり行ける事はなく、挫析の繰り返しで
あった。立ち直れないほどの挫折感を覚えた事もある。
しかし今、相変らずヴァイオリンを続けている。20年間続けて来られたのはどうして
なのだろう。
もしかしたら祖父の「過去はひとまず終わった。これから君が始まるのだ。」と言う言
葉で両親も私も力強く生きて行こうと言う思いにさせられたのではとふと思う事があ
る。
|
(演奏会プログラムより)
|
Copyright (C) 2002-2010 World Arts&Culture Association All rights reserved
|